岩崎俊一さんのコピーを写経して感じたこと。
僕は4月からコピーライターとして働きます。
今はその練習として、写経をおこなっています。
本当はたくさんの人のコピーを写経するべきだと思いますが、
僕は岩崎俊一さんのコピーが好きなので、そればっかりやっています。
ここ数日で6つの作品を写経しました。
「ロケットも、文房具から生まれた。(トンボ)」
「幸福は、ごはんが炊かれる場所にある。(ほっともっと)」
「がんばる人の、がんばらない時間。(ドトール)」
「人は、書くことと、消すことで、書いている。(トンボ)」
「人生は、冬ではなく、春で終わりたい。(ヒルデモア)」
「年賀状は、贈り物だと思う。(郵便事業)」
これらはどれも、何度も読みたい広告コピーという本に紹介されていたものです。
一言一句まねて書き、デザインも作品の通りになるよう工夫しました。
書いた後、読み返してみる。声に出しても読んでみる。1つずつそんなことをしていくうちに、岩崎さんのコピーの性格のようなものが見えてきました。
①ですます、である口調が混ざっている。
「ロケットも、文房具から生まれた。(トンボ)」のボディコピー(本文)からの引用ですが
幸福な仕事。自分たちの仕事を思う時、私たちトンボは決まってこの言葉に行きあたります。なぜなら、私たちのそばには、いつも頭と心をいっしょうけんめいに使う人がいて、その人の手から、必ずひとつ、この世になかった新しい何かが生み出されている。そう思うたび、誇らしさに胸がいっぱいになります。
見事だなぁ。そう思います。だって僕が書いたら
幸福な仕事。トンボは、自分たちの仕事を考えると、いつも頭にそんな言葉が浮かびます。誰かが鉛筆を使って、何かを考え、そして生み出しています。トンボはそのことを、本当に誇らしく思うのです。
こんな感じになりますね。そもそもこの「幸福な仕事」というキーワードが出てこないでしょう。
ですますと、である口調。これを混ぜて使うのは難しいです。どうしても違和感が出てしまう。文章のリズムにあった使い方をしないといけません。
このリズムという言葉をキーワードに、②に続きます。
②文章に岩崎さんの性格がにじみ出ている。
文章家が備えるべき美徳は数えあげていけばきりもないが、そのすべてに君臨するものがあるとすれば、それは晴朗で快いという徳であろう。向井敏『文章読本』
これは編集手帳を10年以上書いていらっしゃる竹内政明さんの著、「編集手帳」の文章術から二重引用したものです。
このあとに竹内さんは、「私が自分の文章を好きになれないのは、そこです。(…)何をどう書いてもジメっとしてしまうのですね。」
と続けています。
僕は、コピーライターのもつべき美徳は「読みやすい文章がかけるか」だと思います。
コピーライターと他の文章家で一番違うのは、読んでいただく人の気持ちです。
小説も雑誌も。新聞だってそんなに変わらないでしょう。みんな読みたくてよんでいます。お金を出して、「さぁ、読むぞ。」ちゃんと、すでに「読者」になっています。
でも、広告は違います。広告を好んで読みたいという方は、なかなかいません。広告は、弾丸です。受け取る方は読者になっておりません。目に飛び込んでくるから、仕方なく読むのです。読みたいから読むのではありません。
書籍も新聞紙も、読むのにお金がかかります。
広告は読むのはただです。その代わり、すすんで読まれません。こちらから働きかけないと誰の目にもとまらないのです。そして、読んでもらえない広告に意味はありません。企業のためにも、読んでいただけるものを書かねばなりません。
そのために、どうするか。
まずは、文章のアクをぬきます。
気取っていたり、飾っていたり、虚勢をはっているような文章は、読む人の立場にたっていません。誰もそんな「作品」を求めていません。
出来るだけやさしく書くことが求められます。
そしてそのうえで、企業の想いや消費者の気持ちにたったメッセージを書きます。
もちろん、コピーライター自身の想いをのせることもあります。「これは体験談なのかな」というものも中にはあります。でも、やっぱりコピーライターは裏方です。企業の代弁者でないといけません。
それになにより、私たちは個人の想いがたっぷりつまった文章を、あまり好みません。あつくるしく思うからです。
個性は匂わす程度に。それはでも、とっても難しいんです。
けれど、岩崎さんのコピーは違います。
実際に写経をしていると、なんだか、人柄が浮かび上がってくるのです。
あったかいような、優しい印象です。それでいて、どこか力強さがあります。
ほっとするような文章、ではないでしょうか。
文章には人柄が出ます。
たいていのコピーライターはそれを無理やり消して、付け焼刃のような文章を書いています。でもそれは仕方ないのです。コピーライターは、好きなことを書いていい訳じゃない。あくまで黒子です。クライアントに駄目と言われれば、どんなにすぐれた表現も却下されてしまいます。それは仕方ないことです。
岩崎さんも同じです。どれだけ優秀なコピーライターであっても、その枠組みから外れることはできません。決められた条件の中で書いている。自由に書いているわけじゃないのです。
それなのに、こんなにも個性が出てる。それも、全然うっとおしくないのです。おそらく意識されているものではないでしょう。でも、文章から匂いたつものが、岩崎さんにはあるのです。
本物の個性は飾らずとも出てくるものだといいますが、まさにそれですね。
企業の代弁者として、コピーライターをしつつ、しっかり自分の色がでている。
岩崎さんのようなコピーライターを目指して、僕もがんばります。